企業年金の現場から H26.07

性急な代行返上同意書の要求

   

○代行返上の説明会と性急な同意書要求  

 4月の改正法の施行をきっかけとして、かなりの数の厚生年金基金が代行返上計画を作成し、各地で説明会を開いています。6月上旬、H基金に加入しているM社のS総務部長は説明会に出かけたところ、一応の説明の上、7月中に代行返上の第1歩である「将来分返上」についての同意書を出してほしいと、その用紙を渡されました。ついこの前まで代行割れになりそうだと騒いでいたH基金が、財政の見通しが明るくなったので、すぐさま代行返上に同意してくださいというのは性急にすぎないでしょうか。

 

○不思議なアンケート

 T基金に加入するE社のN課長は、以前にコンサルタントから、「基金を脱退して、その代替制度として、基金の加算部分ぐらいの給付のあるDBかDCを設定したら、掛金は今基金に払っている掛金の2分の1か3分の1で済みますよ。」という話を聞いたことがあります。しかし、今回基金から出された説明書にはそういう可能性についての言及はありません。そういえば4月頃基金から送られアンケート用紙には、今後の掛金と給付の在り方について、「掛金は現状維持を希望」と「掛金の若干の引き上げもやむを得ない」という選択肢しかなく、コンサルタントのいうような掛金を減額してなお給付水準を維持するという選択と努力はこの基金では許されないように見えます。

 

○代行返上案の典型事例とそれとは異なる選択

 代行返上案の多くは、掛金は現状水準とし、終身年金の給付を廃して、最長15~20年の有期年金(実質は確定年金)に切り替えているのが典型例です(加入者に対する実質的な給付減額、受給者は現状維持案が多い)。しかし、企業によっては、基金から離脱して、自社で独自のDBやDCを設定して、効率よく従業員の受給権を守りたいという希望を持つところもあります。 この場合、基金を離脱する方法としては①任意脱退、②事業所単位の権利・義務の移転、③基金の分割等がありますが、これらの選択も含めて、企業としての利害得失をじっくり考える時間と情報が与えられるべきです。それが基金の説明責任ではないでしょうか。納得できる内容でなければ、同意しないことも一つの選択肢です。代行返上は、1社でも反対があると実行することができないため、基金は、同意しない会社に離脱を求めるか、時間をかけて、より納得性のある案を作成するかを考えざるを得ません。

 

○OBの保護が至上の目的と考えてよいか

 基金側としては、代行返上が掲げる最大の目的は受給者(OB)の受給権の保護であるといいます。たしかに解散したら、受給者の積立不足分は権利としても滅失してしまいます。

 しかし一方、従来各基金が行った給付減額のほとんどの場合、OBはその圏外にあり、もっぱら加入員が減額の対象となって、それによって積立不足を埋めてきたのは事実です。今回の代行返上提案でも同じ考え方です。

 基金が解散されても、残余財産があれば、その分配を受けることができます。多くの基金では実質的に受給者に有利な配分方法が決められています。代行返上を進める基金は概して積立不足も小さく、受給者への分配もそれなりに大きく、そのために代行返上を急がなくてはならないという情勢にもないのではないかと察せられます。

 要するに、このような企業年金問題の具体的な判断は、各関係者の利害のバランスをよく考え、ある特定の関係者の利益を優先すべきではなく、また自由主義経済の社会において、可能な限り企業の自由な判断を尊重すべきではないでしょうか。

  

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