退職金制度全般

Q1.退職一時金制度のデメリットにはどのようなものがありますか(20186)

A1.退職一時金制度とは、退職金規程に支払対象者や退職金の支払額などを定め、従業員が自己都合や定年などで退職した場合に、会社が一時金を支払う制度です。退職一時金制度のデメリットは、主に次の3点があります。

1.資金の平準化ができません

通常、退職一時金の支払いのために支払資金を積み立てることはありませんので、退職者が出たときに会社内部の資金を支払いに充当します。業績悪化による人員整理などで一度に多数の退職者が出た場合、退職一時金の支払資金の手当てに苦慮するようなことが懸念されます。

  一方、企業年金制度を導入すれば、退職金の支払資金を外部に積立しますので、資金準備の平準化が可能となり、上記のような事態の発生を抑制できます。企業年金制度のかわりに保険を使って資金準備をする会社がありますが、企業年金に比べると資金効率が大きく劣ります。

2.節税効果が劣ります

  退職一時金を支払った時に損金処理ができますが、企業年金制度では掛金を掛けると損金処理が可能で節税効果の先取りが可能です。積立てた資金の運用益には課税されません(特別法人税が課税されますが、現在凍結中)

  従業員にとってもメリットがあり、企業年金からの給付を一時金で受け取れば退職所得控除が使え(退職一時金制度の場合も使えます)、年金で受け取れば公的年金等控除が使えます。

3.従業員の受給権の保護に問題があります

  退職一時金制度では、通常、外部に資金を積立しませんので、会社が倒産した場合、従業員が退職金を受け取れないといった問題が発生する恐れがあります。 企業年金制度であれば、資金は外部に積み立てられますので、従業員は積立済の資金を受け取ることができます。

 

Q2.経営者や役員も企業年金に加入出来ますか(2018年7月)

A2.確定給付企業年金(DB)は70歳未満、企業型確定拠出年金は60歳未満の全ての厚生年金保険の被保険者は加入出来ます。
   ただし、従業員と役員で退職金制度がまったく異なる場合には、役員は加入対象としないことが一般的です。

 

Q3.パート社員や契約社員も企業年金に加入出来ますか(2018年7月)
A3.パート社員や契約社員も、厚生年金保険の被保険者で、かつ退職金制度の対象者の場合は、確定給付企業年金(DB)は70歳未満、

   企業型確定拠出年金は60歳未満であれば加入出来ます。
   2016年10月以降は、下記の全ての条件を満たす場合は、厚生年金保険の被保険者となります。
   1 1週間あたりの決まった労働時間が20時間以上であること
   2 1ヶ月あたりの決まった賃金が88,000円以上であること
   3 雇用期間の見込みが1年以上であること
   4 学生でないこと
   5 従業員数が501人以上の企業で働いていること
    なお、2017年4月からは、500人以下の企業であっても、労使の合意がなされれば、厚生年金保険に加入出来るようになりました。

 

Q4.米国などに比べ日本ではDC制度の普及が遅れているそうですが、なぜでしょうか。(2018年8月)

A4.日本ではもともと退職金の準備手段の制度としては、税制適格年金制度、中退共制度、厚生年金基金等が主流でした。

   最も加入者が多かった適格年金制度が従業員利益の保護等の面で問題がある等から廃止の方向となり、

   それを受けて2001年に確定供出年金法が施行されました。

   米国では老後の生活保障の重要な手段として1978に法制化された401K(DC)が公的年金の不足を補う手段として、

   税制メリットが評価されたこともあり急速に普及し主流となり、老後の生活の重要な支えになっています。

   日本では、前述の背景に加え、当初は従業員に運用責任を負わせるという点、退職しても60歳までは引き出せない点等から

   労使双方から抵抗感が少なくなかったこと、また米国で401Kなどに提供される金融商品にくらべ、

   日本の金融機関が高い場合は数倍の水準の料率となる手数料を設定したこともあったりして当初はなかなか実績が伸びなかった

   といわれていますが、最近はDCも見直されるようになり、順調に加入者が増加しています。

 

Q5.中退共に加入していますが、DCに切り替えられますか。(2018年8月)

A5.原則的には中退共へ積み立てた掛金をDCへ移換することはできません。

   例外的扱いとして当該企業が企業規模の増大等にて中退共の加入要件(例えば、一般業種の場合には常用従業員300人以下

   または資本金3億円以下)を満たさなくなった場合に加え、合併、会社分割の場合にもDCへの移換が

   2016年の中退共法及びDC法の改正により認められるようになりました。

 

   中退共は手軽に加入でき、手間と費用がかからないなどの利点がある反面、いったん加入すると簡単には止められない、

   制度が硬直的であるなどの問題もあります。  

 

Q6.退職金制度を導入する余裕はありませんが、社員の老後対策として良い制度があれば教えて下さい(2019年5月)
A6.「選択制DC」の導入をお奨めします。

   この制度は会社が企業型DCを導入しますが、会社が掛金を出すのではなく従業員が給与の一部を拠出し老後資金を準備するという制度です。

   会社は給与の一部に例えば「ライフプラン手当」という名称をつけて給与から切離し、この金額をDC制度の掛金に充当することができます。

   従業員が金額を個々に選べ、加入しないという選択も可能です。企業型DC制度のルールが適用され、掛金の上限額は月額55,000円です。
   会社は給与が減るため社会保険料が減ると言うメリットが生じます。一方、従業員は給与減になることで社会保険料や所得税・住民税が減るという

   メリットがある反面、老齢厚生年金の受給額が減るデメリットがあります。

   どの程度違うか等の詳細は企業年金相談センターにご相談下さい。

   また、会社がDC制度を導入せず従業員へ「iDeCo」への加入を奨励するという選択肢もありますが、

   従業員が自由に金融機関を選ぶことができるため、会社の事務負担が大きくなります。従業員規模にもよるでしょうが、

   事務負担は意外に大きく、あまりお奨めできません。 

 

Q7.中退共と特退共の違いは何ですか(2019年7月)
A7.中退共(中小企業退職金共済制度)と特退共(特定退職金共済制度)は、導入の手続きが簡単、運営事務費が掛金に含まれているので別途の

   費用が発生しないなど中小企業が活用しやすい制度です。

   中退共は独立行政法人中小企業基盤整備機構、特退共は各地の商工会議所等で運営されており、以下にその違いを説明します。
 (特退共は、東京商工会議所の例)
 ①加入できる企業
  中退共は、中小企業基本法に定められた中小企業(例えば、小売業なら資本金5千万円 以下又は従業員50人以下のどちらかを満たす必要がある)

  が対象です。
  特退共は、商工会議所などが定める地域内で事業を営む企業が対象で、「規模の制限」はありません。
 ②加入できる従業員
  どちらも全員加入が原則ですが、使用人兼務役員以外の役員は加入できません。役員も加入させたい場合は、確定給付企業年金(DB)や

  企業型確定拠出年金(DC)などの企業年金制度が適しています。
 ③月額掛金
  中退共は5千円から、特退共は千円からで上限はどちらも3万円です。なお、短時間労働者は、中退共でも2千円から掛けられます。
 ④退職一時金の額
  中退共は1年未満の場合は支給されませんが、特退共では1カ月以上から支給されます。
  月額掛金5千円で1年間加入した場合、中退共の退職一時金額は、1万8千円ですが、特退共は 約5万8千円支給されますので、

  短期間で退職する従業員が多い場合は特退共の方が有利になります。

  ただし、特退共でも掛金の総額6万円を下回ることに留意する必要があります。

  中退共では4年以上、特退共では8年以上の加入で、やっと掛金総額を千円程度上回る退職一時金が支払われようになります。
  月額5千円で10年間加入した場合は、中退共が約63万3千円なのに対し、特退共は約60万7千円。加入期間が長くなる程、

  中退共の方が有利になります。
 ⑤遺族一時金
  加入従業員が亡くなった場合、特退共では1口につき1万円が加算されます。月額5千円で10年加入した場合は65万7千円となり中退共を上回ります。

  なお、中退共にはこのような仕組みはありません。
 ⑥助成金
  初めて加入する事業主に対して、加入後4カ月目から1年間、加入している従業員の掛け金の1/2(従業員ごとに上限5千円)が助成されます。

  また、掛金月額を増額する場合、増額分の1/3が1年間助成されます。(掛金1万8千円以下から増額する場合)

  特退共には、助成金はありません。

 

Q8:退職金制度を整備するメリットはどんなところにありますか?(2019年8月)
A8:退職金制制度は通常支払う賃金とは違い、その支払いが法律では義務化されてはおらず、制度の設定は企業の任意です。それにもかかわらず、我が国では約8割ぐらいの企業で何らかの形で退職金制度が整備されています。

退職金制度を整備するメリットとはなんでしょうか。
会社側からすると次の点がよく指摘されます。
①社員の長期雇用継続の推進策となる
②良い人材を確保するための有利な条件提示となる
③定年や早期退職の円滑化のひとつとなる
④社員の非違行為(非行、違法行為、服務規律違反の行為等)に対する抑止策となる

最も大きなメリットは ①にある社員の長期雇用の奨励・定着に対するインセンティヴと思います。最近は人手不足の深刻化で、例えば、求人票に「退職金制度 なし」としているだけでも影響があるとして、退職金のない企業での制度導入を急ぐ例、従業員の定着率改善策として他の対策と並行して既にある退職金制度の改善等の事例がよく見られます。

社員側からは次の点が考えられます。
①退職後・老後の生活の支えとなる
②税務上や社会保険上の優遇措置が受けられる
③長期勤続のインセンティヴとなる
④会社の労働条件への満足度が高まる契機となる

退職金は一度制度化して退職金規程等を規定しますと、労働契約上賃金の一部として位置付けられその後会社に支払義務が生じてきます。会社にとっては対象となる社員が退職する際に一時的に多額の退職金を支給する義務が課され、時には決算や、資金繰りに大きな影響がでることも考えられます。

社員の受給権の保護、資金効率の向上を考え、法令で保護されている企業年金制度等を利用して無理のない、社員のモチベーション向上に資するような制度を作る工夫をしていくことが大切です。           

 

Q9: 定年を60歳から65歳に延長しますが、退職金は増額せず60歳までの期間で計算する予定です。旧定年時(60歳)に支給した退職金は、退職手当等として所得控除されますか。(2020年12月)

A9:「改正高年齢者雇用安定法」の公布に伴い(詳細は2020年11月のメルマガ参照)、定年延長を検討する企業が増加しています。一方で、退職金を住宅ローンの一括返済に充てる予定をしていた従業員等は、生活設計が狂ってしまい不利益を被ることになります。
そこで、定年は延長したが、退職金はその期間分の加算はされないので、旧定年時の60歳で退職金を支給するという制度です。
退職金を一時金で受け取る場合、退職所得控除が適用さるかどうかは大変重要です。
所得税基本通達30-1には、退職手当等の範囲は「退職したことに起因して一時的に払われることになった給与をいう」と定めており、退職せずに引続き勤務する場合は、給与所得として扱われることになります。
 一方で、所得税基本通達30-2には「定年を延長した場合において、その延長前の定年に達した使用人に対し旧定年に達する前の勤続期間に係る退職手当等として支払われる給与で、その支払いをすることにつき相当の理由があると認められるもの」は退職所得として取扱うのが適当であると記されています。本件のような場合は相当の理由がある、という見解を熊本及び高松国税局が示しています。
  ※いわゆる打切り支給の退職手当等として認められていますが、実際の運用に際しては所轄税務署への確認が必要です。
 さらに、下記の点に留意して下さい。
 ① 退職所得として扱われるのは、定年延長前に入社した社員のみであり、定年延長後に入社した社員が60歳で退職一時金を受取ると、同様の扱いを受けるとは限りません。
 ② 60歳で打切り支給されるが、新定年の65歳まで繰下げて受給することを選択した場合、60歳から65歳までの5年間は退職所得控除の対象期間とはみなされません。
  
確定給付企業年金(DB)を採用している企業で、上記のように打切り支給を行う場合、65歳まで繰下げて受給する従業員に対し、繰下げ利率を付与するかどうかを検討する必要があります。また、打切り支給をせずに、金額をこれまでと同額に据置いたままで定年延長を行うと、給付減額に該当する可能性があるので、注意が必要です。
確定拠出年金(DC)の場合は、規約に定める加入者の資格喪失年齢を60歳のままで据置くことにより、上記のような例への対応は可能です。

 

 

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