企業年金の現場から R2.1

「定年延長と退職金」

高年齢者雇用安定法では定年を定める場合は60歳以上とすること、65歳未満の定年年齢を定めた場合は65歳までの雇用確保措置(実際には約8割の会社が継続雇用制度を採用している)をとることが定められています。
一方総務庁の調査等でも働く60歳以上の者の7割近くが70歳以上まで働いていたいとの意識であることも分かっています、今年になって話題となった老後の資金2000万円問題が更にこの風潮を高めているものと推測されます。又、最近は国の施策や労働力不足、特別支給の老齢厚生年金の支給開始年齢の段階的引き上げ等を背景として、高年齢者雇用安定法で定めている定年年齢の下限の60歳から定年年齢を引き上げる企業が増えています。

定年延長には一律に定年年齢を引き上げる一般的な方式の他に、職種別に定年年齢を設定する方式(医療法人等で見かけることがあります)や定年年齢を選択式にする方式(ヤマト運輸)等があります。

よく企業の人事担当の方から、聞かれるのは定年延長をすることで検討を始めたのだが、退職金はどうすれば良いのかということです。ご存知のように退職金制度そのものは特に法律で決まっているわけではないので、基本的には労使で合意して決めることができます。
例えば、60歳から 65歳へ定年延長を行った場合を例にとりますと、
① 60歳から65歳の間も現行の基準で支給算定額を積み増していき65歳までの算定期間に対して65歳定年退職時に支給。
② 制度改定前の基準で60歳時までの勤務期間を対象に退職金の算定を行い65歳定年退職時に支給。    
③ 定年を65歳に延長するが、退職金は60歳時に60歳までの勤務期間をベースに算定して支給(会社によっては定年延長した際に従業員から60歳時支給の要望が出たために退職金は60歳支給とした例があります)。
等の例があります。

①は支給水準の上昇に繋がりますが、全体的な判断でこれを採用する例も少なくありません。
②については、60歳時に支給されるはずの退職金が65歳退職時に支給されるので、やや微妙なところがありますが、定年延長による従業員の生涯賃金の増加等のメリット全体を勘案して従業員と制度改定に合意できていれば問題は少ないと思います。
③については平成30年3月6日の高松国税局の文書回答、及び平成31年熊本国税局の文書回答にて制度改定前に入社した者の退職金については制度改定の経緯を踏まえて60歳の在職中に支給した場合でも税務上の退職金税制優遇措置が適用される旨説明されています。(実際に制度を検討・運用する際には顧問税理士、所轄の税務署へ照会することをお勧めします)

尚、中小企業退職金共済に関しては、定年延長をした場合には掛金の拠出をそのまま実際の退職まで続けなければなりませんので注意を要します。

定年延長等については要件を満たして企業が申請すると「65歳超雇用推進助成金」が受給できる場合があります。

文責:鼓 康男

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