企業年金の現場から R1.10

「公的年金制度の財政検証」

5年に1度実施される公的年金の財政検証の結果が、8月27日に公表されました。
2014年に比べ、モデル年金額は2千円、1%ほど上昇しましたが、現役世代に対する所得代替率は1%低下したので、実感としてはほぼ横ばいと言えるでしょう。なお、モデル年金額は、40年間勤務した会社員と40年間専業主婦の妻という、やや特異な例であることに留意して下さい。

        現役世代の手取り収入  所得代替率    モデル年金額
2014年財政検証      34.8万円        62.7%      21.8万円
2019年財政検証      35.7万円        61.7%      22.0万円

 それでは、今後はどうなるのでしょうか。厚生労働省は、実質経済成長率、物価上昇率、賃金上昇率等、経済の前提が異なる状況で6ケースを示していますが、ほぼ中位となる上から3番目のケースを見てみましょう。

        現役世代の手取り収入  所得代替率    モデル年金額
2024年の見通し      36.7万円        60.2%      22.1万円
2040年の見通し      43.7万円        53.6%      23.4万円
2060年の見通し      54.3万円        50.8%      27.6万円

モデル年金額は、物価上昇率を割り戻して2019年の物価に換算していますので、購買力は一定の水準が保たれます。ただ、現役世代との収入格差が
広がりますので、生活に余裕が無くなった、とより強く感じるかも知れません。
 公的年金は、本来は物価や賃金の増加に合わせて増額されます。一方で、現役世代が引退世代を支える「賦課方式」と呼ばれる現在の制度は、少子高齢化の状況下で制度を維持することは困難となっています。この為、給付を抑制する「マクロ経済スライド」という仕組みが導入されており、上記のモデル年金額の見通しには、その調整が反映されています。また、 将来の給付水準を確保する為に、今回はいくつかのオプションが示されました。
①厚生年金の適用拡大:中小企業のパートタイマー等も厚生年金に加入
②掛金納付期間の延長:基礎年金(国民年金)65歳まで、厚生年金75歳までの5年間延長
③繰下げ受給年齢の延長:75歳まで繰下げ可能に(現在は70歳まで)
④65歳以上の在職老齢年金の廃止:現在は年金+報酬が47万円を超すと年金を減額

 これらは企業や個人の負担を伴うものも多く、今後異論が出ることも考えられます。
 ところで、本年6月の「老後は2千万円不足する」という金融庁の審議会の報告が大きな話題となりました。これは、総務省が行っている2017年の家計調査で、高齢無職世帯が毎月5.5万円を取り崩しているという結果を基に、5.5万円×12カ月×30年=1980万円から導き出されたもので、公的年金額は19.2万円となっています。2018年の家計調査では、不足額は月に4.2万円に減少していますが、持ち出しであることに変わりはありません。
この穴埋めの資金として、退職一時金や企業年金が考えられますが、全てを企業が準備するには、かなりの困難を伴います。企業型の確定拠出年金(DC)制度を導入し、マッチング拠出や選択制で従業員にも自助努力をしてもらう、というのが現実的な解決方法ではないでしょうか。

文責 田中 均

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