企業年金の現場から H30.10

定年後再雇用時賃金をめぐる最高裁判決! 長澤運輸事件

 2018年6月1日に最高裁にて下された長澤運輸事件判決は、定年後再雇用社員の賃金格差が労働契約法第20条(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)に違反するかどうかの判断を示しました。
 定年後再雇用後は嘱託社員として、バラ積みトラック運転の同一業務に従事していた社員が労契法第20条の不合理な労働条件として、定年時の8割程度に減額された賃金の正社員並水準への是正、その差額を支払うように求めた長澤運輸事件では、差額の支払いを命じた一審判決を東京高裁が逆転させていましたが、最高裁は精勤手当の扱いを除き東京高裁判決を結論において是認しました。但し、アプローチの方法がだいぶ異なりました。

<判決趣旨 >
①再雇用者は定年まで正社員の賃金を支給され、老齢厚生年金も予定されており、これらの事情は、不合理性の判断の際に考慮する点として労働契約法20条が挙げる「その他の事情」とする。
②賃金項目が複数ある場合、項目ごとに趣旨は異なり、労働条件が不合理かどうかはその趣旨を個別に考慮する。
③精勤手当については、再雇用社員と正社員の職務内容が同一である以上、皆勤を奨励する必要性に相違はなく、不合理であると判断しましたが、その他の能率給・職務給、住宅手当、家族手当、賞与については会社側の配慮(基本賃金の増額、歩合率増加、老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始まで2万円の調整金支給)、定年後再雇用である点や正社員時の年収の約8割程度の支給がなされていることを理由に不合理とはいえない。
④その結果、各原告に精勤手当の支払いを命ずるとともに精勤手当が計算対象に含まれていない超勤手当にかかる損害賠償の部分を高裁に差し戻し。 

<補足説明> 
①今回の最高裁判決は「定年後再雇用」は労働条件の差異の不合理性判断について「その他の事情」として考慮されることを示し、すなわち定年後再雇用で一定の待遇差を設けることを許容できるとの判断をしています。
②東京高裁判決が採用した「同じような業種で同じような規模の会社が支払う再雇用後の給与水準であれば、不合理とはいえない」という「社会的容認」論を最高裁は採用しませんでした。
「うちの業界ではこのくらいが普通なのだ」という論理は通用しないということです。
③定年前後で職務の内容・変更範囲が変わらない場合、職務に関する手当という趣旨が明確な手当(本件の場合は、精勤手当)を支給しないことは不合理とされ、職務との関連性が低い、属人的、福利厚生的性格の濃い手当(本件の場合は、家族手当、住宅手当等)は不合理とされないとの線引きがこの判決では出来ています。
社員に支給している手当に関してはなぜ支給しているのか等今後の見直しが必要になることも考えられます。賃金の考え方を職務・役割に対して賃金を支払うというように変えていくのが今後の流れになるものと思います。
④今回の最高裁の判断は労契法20条の均衡規定に基づくものでしたが、既に国会で可決された働き方改革法案のひとつで労契法第20条は廃止され、その内容が統合された「パートタイム・有期雇用労働法」の第9条(差別的取扱いの禁止)の解釈・運用の規準が省令、通達、「ガイド・ライン」等で示されることになりますが、8月30日付け労働政策審議会のガイド・ラインの叩き台では長澤運輸事件の判決を受けて追記された部分に「様々な事情が総合考慮されて、通常の労働者と当該有期雇用労働者との間の待遇の相違が不合理であるかどうかが判断されるものと考えられる。当該有期雇用労働者が定年に達したあとに継続雇用されるものでることのみをもって、直ちに通常の労働者と当該有期雇用労働者との間の待遇の相違が不合理ではないとされるものではない。」としています。
「同一労働同一賃金」のルールがどうなるか今後注目されます。
⑤同じ日に最高裁判決がでた「ハマキョウレックス事件」
でも大手運送会社の同一業務につく正社員と有期雇用の契約社員の手当の差について、二審判決が認定した通り、無事故手当、作業手当、給食手当、通勤手当(契約社員は定額のみ支給)の契約社員に対する不支給は不合理であると判断したのに加え、皆勤手当についても不支給は不合理と判示しています。


(鼓 康男)

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