企業年金の現場から H30.9

少ない負担で導入できる選択制確定拠出年金




 厚生労働省が発表した6月の有効求人倍率は1.62倍で、実に44年ぶりの高さとなりました。また、完全失業率は低水準が続いており、特に中堅・中小企業の採用難・人手不足が顕著です。
 先日も、退職金制度がない企業の社長から「退職金制度を作りたい」という相談がありました。「求人票に“退職金制度あり”としたいがあまり余裕がない」という事でしたので、選択制確定拠出年金(選択制DC)をおすすめしました。

■選択制DCの仕組み
給与規程を変更し、給与の一部を減額して、その分を手当(例えばライフプラン手当)に振り替え、その手当をDC掛金の原資とします。ライフプラン手当をDCの掛金とするかどうかは従業員の選択となり、手当全額をDC掛金とすることもできますし、一部をDC掛金とすることもできます。
DCに掛金を掛けたくない従業員は、DCには加入しないで、ライフプラン手当の全額を給与として受け取ることができます。そうすれば従来通りの金額を給与として受け取ることになります。

選択例(ライフプラン手当を3万円とした場合)
 ・DC掛金3万円、給与受取0円
 ・DC掛金2万円、給与受取1万円
 ・DC掛金0円、給与受取3万円
  ※千円単位で選択できるのが一般的です

 このように、選択制DCは給与の一部をDC掛金に振り替える仕組みであり、企業の新たな負担なしにDC制度が導入できます。従業員にとっても有利に資産形成できる仕組みであり、今後ますます公的年金が縮小されることを考えると、企業が従業員の自助努力を応援する仕組みを整備する必要性も増しています。

■選択制DCのメリット
①企業のメリット
 ・新たな負担なしにDC制度の導入ができ、退職金制度がない企業では退職金制度(企業年金制度)の創設となり、求人等で有利となります。
 ・従業員のDC掛金相当額の現金給与が減少しますので、社会保険料の負担が減少します。
②従業員のメリット
・手当をDC掛金とすると社会保険料や所得税・住民税が軽減できます。
・さらに、運用益に所得税・住民税がかからないので、選択制DCを利用すれば効率的に老後資金の準備ができます。
・年金で受け取ると「公的年金等控除」が、一時金で受け取ると「退職所得控除」が適用され、税制上の優遇措置が使えます。

■選択制DCの留意点
①企業の留意点
・DCの運営費の負担が発生します。
・導入時だけでなく、継続的な投資教育の実施が努力義務となっています。
①従業員にとっての留意点
 ・DC掛金分の現金給与が減少しますので、標準報酬の等級が下がり、将来の厚生年金が減少する可能性があります。通常は、社会保険料、所得税・住民税の減少でカバーできます。
 ・残業代が減少する可能性がありますが、給与規程で減少しないよう対応可能です。
 ・失業給付が減少する可能性があります。
 ・DC掛金額を変更することは可能ですが、0円とすることはできません。
  ※DCに加入しなかった従業員が、後から加入することは可能です。
 ・DCは原則として60歳以降にならないと受け取れませんので、老後資金の準備が主目的となります。

 選択制DCは、企業にも従業員にもメリットがある制度です。退職金制度がないあるいは退職金制度はあるが見劣りするという企業は、選択制DCの導入を検討することをおすすめします。


(葉山 俊夫)

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