企業年金の現場から H30.7

確定拠出年金加入事業主の「運営管理機関の評価義務」

確定拠出年金制度は、2001年に発足してから間もなく17年が経過しますが、企業型への直近の加入者数は678万人、実施事業所数は3万社を超えました。

また、個人型確定拠出年金(iDeCo)の加入者を加えますと約770万人となり、従来のペースで加入者数が増加しますと、数年後には確定給付企業年金の加入者数を超え最大の私的年金に成長するものと推測します。

 

確定拠出年金制度を実施する事業主は、従来から加入者等への忠実義務の一つとして、もっぱら加入者の利益の観点から運営管理機関を選定する必要がありました。改正法の施行(※1)により、「少なくとも5年ごとに、運営管理業務の実施に関する評価を行い、運営管理業務の委託について検討を加え、必要があると認めるときは、運営管理機関の変更その他の措置を講ずるように努めなければならない」と事業主による運営管理機関の再評価義務が追加され、加入者等に対する忠実義務が強化されました。

(※1.平成3051日)

 

運営管理機関の評価と対応の事例

私たちは、法改正に先立ち複数の事業主から確定拠出年金制度の改善のため、本内容と類似の運営管理機関評価の要請を受け対応致しました。特徴的には、確定拠出年金制度を採用後、数年以上を経過した事業所の投資信託商品は、現在の主力商品に比べ信託報酬が高額(高率)なものが多数のため、結果的に運用成績が劣る傾向が見受けられました。また、個別型規約(当該企業が承認を受けた規約)採用の事業所では、現在の一般的な事務費(資産管理費含む)に比べ高額の事務費が設定されている傾向も見受けられました。事業主と共に、調査結果を踏まえ運営管理機関と交渉を行った結果、総合型規約(代表企業が承認を受けた規約)・個別型規約を問わず事業主の要望に従って、優良な金融商品の追加等の対応をした運営管理機関が多数でした。しかし、一部の運営管理機関は、優良運用商品の追加等を拒んだため交代して頂きました。

 

まとめに代えて

この法改正で、確定拠出年金制度の商品内容や費用、サービス内容等を5年ごとに評価し不具合点を改善することによって、加入者の利益が向上するものと考えます。しかし、金融商品自体の専門的内容を必ずしも熟知していない一般の事業所において、金融商品の評価や最新の事務費の評価は困難が予想されるため、世間一般の現況や専門的な知識を有する第三者に評価を依頼することが、事業主及び加入者双方の利益に寄与する可能性が高いものと考えます。

 

<ご参考>

本法改正に伴う年金局長通知「事業主が5年ごとに実施すべき評価項目

概要」(企業の規模等に拘わらず評価すべき項目)

1.運用商品関係

ア 運用商品の全て又は多くが1金融グループであった場合、加入者などの利益のみを考慮したものと言えるか。

イ 下記(ア)~(ウ)の場合、加入者のみを考慮したものと言えるか。

(ア)同種の他の商品と比較し、明らかに運用成績が劣る投資信託

(イ)他の金融機関が提供する元本確保型商品に比べ、提示された利回りや安全性が明らかに低い元本確保型商品

(ウ)同種の他の商品と比較して、手数料や解約時の条件が良くない商品

ウ 運用商品の手数料について、詳細な開示がない又は一覧性がない若しくは詳細な内容が判りにくい場合、何故そのような内容になっているのか。

エ 運営管理機関が事業主からの商品追加や除外の依頼を拒否する場合、それが加入者等の利益のみを考慮したものであるか。

2.運営管理機関による運用商品モニタリングの内容と報告の有無

3.加入者等への情報提供が分かりやすく行われているか(例えば、コールセンターや加入者ウエブの運営状況)

砂田昌次郎)   

「企業年金の現場から」に戻る