企業年金の現場から R2.9

年金法の改正を機にDCの商品ラインナップの見直しを!

6月5日に年金改正法が公布されました。いわゆる束ね法案で、公的年金・私的年金の両方の改正が含まれますが、ここでは代表的な私的年金である確定拠出年金(DC)の改正について考えてみます。

企業型DCの加入者が、個人型DC(iDeCo)に加入するには、これまで下記の条件を満たす必要がありましたが、これらが撤廃されました。

①企業型DCの規約に、iDeCoに加入可能と定められている。

②(iDeCoの拠出上限額を確保するために)企業型DCの拠出限度額の上限が、5.5万円から3.5万円(確定給付企業年金・DBを実施している場合は、2.75万円から1.55万円)に引き下げられている。

選択制やマッチング拠出が導入されていれば、iDeCoに加入しなくても従業員自ら掛金を拠出し、資産作りを行なうことができます。しかし、マッチング拠出を導入している企業は全体の3割程度であり、さらに従業員の拠出額は事業主の掛金額を超えることが出来ない、という制限もあります。

例えば、事業主掛金額が5,000円の場合、マッチング拠出の上限額も5,000円です。

今回の法改正により、マッチング拠出かiDeCoかどちらかを各人が選択できるようになります。iDeCoなら20,000円まで拠出できる(DBを実施していない場合)ので、iDeCoを選んだ方が有利になる場合があるでしょう。

では、従業員にとってデメリットはないのでしょうか。企業型DCの場合、事務費はほとんどの場合企業が負担していますが、iDeCoでは各人が支払うことになります。

加入時に窓口である企業年金連合会に事務費として2,829円支払い、加入中も毎年1,260円が必要です。信託銀行に資産管理手数料として年間792円が発生するほか、金融機関への運営管理手数料も生じます。

 ネット証券などでは、運営管理手数料が0円の所もありますので、総額で年間2,000円から7,000円程度になります。企業年金連合会の事務費が高すぎるのではないか、という意見もあり今後の議論の余地があると思われます。

 仮に事業主掛金が20,000円の場合、マッチング拠出の上限も20,000円になるので、自分で事務費を負担してまでiDeCoを選択することは、意味のないことに思われます。しかし、この様な選択をする従業員は本当に居ないのでしょうか。

 2016年の改正DC法により、事業主は、少なくとも5年ごとに運営管理機関の評価を実施することが努力義務とされました。その中には、提供されている商品に関する内容もあり

 ①提示された商品群の全て又は多くが1金融グループに属する商品提供機関又は運用会社のものであった場合、それがもっぱら加入者等の利益のみを考慮したものといえるか。

 ②下記(ア)~(ウ)のとおり、他の同種の商品よりも劣っている場合、それがもっぱら加入者等の利益のみを考慮したものであるといえるか。

  (ア)同種(例えば同一投資対象・同一投資手法)の他の商品と比較し、明らかに運用成績が劣る投資信託である。

  (イ)他の金融機関が提供する元本確保型商品と比べ提示された利回りや安全性が明らかに低い元本確保型商品である。

   (ウ)同種(例えば同一投資対象・同一手法)の他の商品と比較して、手数料や解約時の条件が良くない商品である。

  なぜ、このような内容がわざわざ盛り込まれているのでしょうか。それは、運営管理機関がメインバンクや大株主であることが、少なくないからです。

 運営管理機関がメインバンクなどであれば、ほとんど選択の余地もなく、先方の言いなりに商品が提供されている場合も多いのではないでしょうか。

 また、投資信託商品の信託報酬(手数料)は、近年著しく低下してきています。特にしがらみのない運営管理機関を選択したのであっても、DC制度の導入がかなり以前であれば、当時は信託報酬が高い商品しか存在しなかった、ということも考えられます。

 会社が提供する商品に比べ、よりよい商品に投資したいので、自ら事務費を支払ってでも、iDeCoを選択する、という従業員が現れてきたらどうしますか?

自社のDC制度に「No!」をつきつけられる前に、商品ラインナップの見直しに取り組む非常に良い機会だと思うのですが、いかがでしょうか。

文責:田中 均

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