企業年金の現場から R5.3

年金が中心となる老後に向けたライフプラン(資産準備)を考える

 

円安が急激に進んだ昨年から、予測できない為替変動と共に、物価高が進むインフレ懸念という厳しい外部経済環境になってきています。経済面での将来のリスク対策として大事なことは、現役時代に自助努力で準備していくことです。将来的な貨幣価値の下落(インフレ)が見込まれると、公的年金でもらえる金額に減っていくという心配も出てきます。現在の公的年金制度は、物価や賃金、平均余命などの社会情勢に合わせて調整するマクロ経済スライドによって給付水準が見直されています。このため、物価上昇率を上回る調整がされるとは考えにくく、ゆとりある老後を目指すには資金が不足する計算です。公的年金を貰うことを期待できにくくなるため、証券口座を開設して準備を進める若い世代が増えています。将来不足するであろう資金を準備するため、企業年金をベースにした退職金と共に、NISAやiDeCoといった税制優遇のある制度に注目が集まっています。

 

昨年末、令和5年度の税制改正大綱が政府より発表されました。改正内容は、岸田首相が掲げる「資産所得倍増計画」に向けて、個人所得課税においてNISA制度の抜本的拡充と恒久化があり、年金制度への変更はございませんでした。令和6年1月からの適用となるNISA制度がどう変わるのかを見てみると、①投資可能期間も非課税期間も無期限になり(恒久化)、安心して制度を利用することができるようになります。②従来「一般NISA」と「つみたてNISA」のどちらか一方しか選択できませんでしたが、「成長投資枠」と「つみたて投資枠」という2つの枠組みをどちらも利用できるようになります。③年間投資上限額が「一般NISA」の120万円(5年間)か、「つみたてNISA」の40万円(20年間)だったものが、「成長投資枠」で240万円、「つみたて投資枠」で120万円、さらにそれらが併用できるため、年間360万円となります。ただし、「生涯投資枠」の限度額は1,800万円(このうち成長投資枠が1,200万円)と利用できる金額には上限が設けられています。

 

例えば、「つみたて投資枠」で上限額いっぱいに利用しようとすると月々10万円の均等積立が可能ではありますが、無理のない金額の範囲でコツコツ長期的に行うことがお勧めです。それぞれの余裕資金に応じた範囲で公的年金や企業年金を補完する資産形成の手段として活用されるのが良いと思います。為替変動やインフレに対する対策も必要なので、シニア層でも、安全資産を確実に保有し、一定割合を毎月少しずつ積立投資にする活用も考えられます。その際に注意しておくべきことは、ご自身の資産運用の対象のバランスです。企業年金で運用している商品を含めて適切に分散させる資産配分を行うことが大事です。

 

また、教育費や住宅購入をはじめとした多様化するライフイベントや外部経済環境の変化に合わせて定期的にライフプランニングを見直していくことが必要です。ある日突然始まるものではない老後への備えとして、何歳でいくら収入が入るのか、あるいは貯蓄の取り崩しを行うのか、試算をやってみましょう。対策としての企業型確定拠出年金やiDeCo、自営業の方であれば小規模企業共済といった、税制優遇措置のある制度を活用して将来に向けた準備を始めるとき、あるいは見直しをかけるときではないでしょうか?

 

文責 志水 竜夫

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