企業年金の現場から R5.1

iDeCo(個人型確定拠出年金)は「年金資産を増やす」だけではありません

より多くの人が長く多様な形で働く社会変化の中、年金制度は段階的に変更され、令和4年10月以降は、企業型確定拠出年金(企業型DC)と個人型確定拠出年金(iDeCo)の両方に加入しやすくなり年金資産を増やせる選択肢が増えました。特に事業主掛金が比較的低額の若手社員等、老後の生活基盤をiDeCoでさらに盤石にしたいと加入を検討される機会も増え、iDeCoがより身近な制度として認識されるようになってきたのではないでしょうか。

 

しかし、iDeCoは「年金資産を増やす」役割だけでなく、年金制度全体の調整弁として「年金資産を守る」という大切な機能をも果たしています。

今回はその点をまとめてみます。

 

1 企業型DCの拡大と放置年金

企業型DC加入者は令和4年3月末現在で780万人に達し、今後もますます加入者数の増加が見込まれます。その一方で、放置年金(必要な手続がなされなかった結果、国の管理下に置かれている年金)は5年間で7割近く増加(令和4年7月末時点で111万人)しています。

その背景として、働き方の多様化があげられます。

従前、退職金の受取り方法は、長年勤めあげた会社から退職一時金(現金)を受領するのが一般的でした。

最近では、退職時に運用資産を持ち運べる(ポータビリティ)仕組みが整い、各人のライフスタイルに応じて選択できる範囲が広がりました。それにもかかわらず、企業型DCに放置年金が多い理由の一つとして、企業型DCは事業主主導(導入・拠出)のため、従業員が手続きを自ら行うという意識が薄く、退職後の働き方、住居等の不可測な状況下、自分の最適解を選択するにあたり制度自体が複雑で分かりにくい点があげられます。

 

2 転職後の運用資産の移換手続

民間企業へ転職するか否か、転職先に企業型DCがあるか否か等、運用資産の移管先は多岐に渡ります。いすれの場合であっても、注意すべきは、退職日から6か月以内に移換先を決め、手続きを行う必要があるという点です。

(1)運用を継続する場合:

① 転職先に企業型DCあり:企業型DCもしくはiDeCoのいすれかを選択

② 転職先に企業型DCなし

a) iDeCoを選択

b) 企業型DB(受入れ可能規約がある場合)あり:企業型DBもしくはiDeCo

のいずれかを選択

(2)運用を継続しない場合

転職時の年齢によっては、拠出や運用を行わず利回り(予定利率0.25%~1.25%)を確定させるために企業年金連合会へ運用資産を移換

 

3 強制移換のデメリット

退職日から6か月以内に上記2(1)(2)のいずれかの手続きをしない場合、年金資産は国民年金連合会に自動的に移換(自動移換)されます。その場合、以下のようなデメリットがあります。

(1) 資産は自動的に売却され利息等のつかない現金として管理され、税制優遇も得られない。運用継続できないにもかかわらず毎月の管理手数料や自動移換手数料が差し引かれる

(2) 自動移換中は老齢給付金を受け取るための通算加入者期間に算入されないため、受給開始の時期が遅くなる可能性がある

(3) 老齢給付金、障害給付金はiDeCo等へ移換するまで受け取れない

 

本来、退職金受取方法の決定は離職者自身の選択に委ねられており、事業主側は一定の手続が必要である旨を離職者に説明すれば足りると思われます。しかし、放置年金の実態に鑑み、また企業型DC制度の目的を全うするためにも事業主の役割は極めて重要です。

離職者へ6か月以内の手続の重要性を認識させるのはもとより、制度改正によりiDeCoが身近になってきた今だからこそ、iDeCoは「年金資産を増やす」だけでなく、「年金資産を守る」役割がある点を認識してもらえるよう、今年の投資教育の一項目として加えてみてはいかがでしょう。

                                       文責:臼木万里子

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