企業年金の現場から H26.11

厚生年金基金の権利義務移転と分割解散

 

 平成26年4月に「公的年金制度の健全性及び信頼性の確保のための厚生年金保険法等の一部を改正する法律」(以下改正法といいます)が施行され、ほとんどの厚生年金基金(以下基金といいます)は5年以内に消滅します。基金に加入している従業員の年金期待権はどうなるのでしょうか。

基金が消滅する場合、事業主が従業員の年金期待権を守るいくつかの方法がありますが、ここでは二つの方法を考えてみたいと思います。

 

 最初に、事業主が基金から従業員に係る権利義務を既設又は新設の確定給付企業年金(以下DBといいます)制度に移転してもらう方法です。この場合は、基金が代行部分を国に、上乗せ部分を既設又は新設DB制度に移転することになります。これが首尾よくいくかどうかは、基金の対応次第です。少なくとも基金規約に権利義務の移転に関する条項が規定されていることが必要です。また、基金への影響は規模が縮小するだけで、決してハードルが高いわけではないので、実施に当たり事業主は基金とのコミュニケーションを大切して協力を得ながら進めることになります。

 

 二つ目は、分割解散する方法です。基金が代行返上(=DBに移行することが前提になります)する場合は代議員定数の3分の2以上の同意が必要ですが、実際に代行返上するときは全事業主が同意することになります。したがって、1事業主でも代行返上に同意しなければ、基金は代行返上できず、DBに移行できません。そこで、事業主の中に代行返上賛成組と代行返上反対組とがいる場合は、基金を賛成組基金と反対組基金の二つに分割し、賛成組基金は代行返上し、反対組基金は解散します。代行返上で従業員の年金期待権は保護されますが、代行部分が国に移されるだけで主体は変わらないため、将来を不安視する事業主も多く、基金を解散して事業主が独自の制度で従業員の受給期待権を守っていく方法です。

 

 今回の法改正の目的は、公的年金制度の健全性・信頼性の確保と基金の企業年金制度への円滑な移行ですが、安易な選択をすると企業年金制度は充実どころか縮小してしまいます。そのためにも、基金事務局は事業主・従業員(加入員)にあらゆる選択肢を示し、きめ細かい丁寧な説明をする必要があります。また、事業主はこの機を捉えて自社の退職年金制度を充実発展させるべく議論を尽くしてほしいと思います。

 (近藤嘉正)

 

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