企業年金の現場から H26.03

遺族一時金の支給順位について ―厚生年金基金の規約を例に

               

 厚生年金基金、確定給付企業年金、確定拠出年金等企業年金には加入者が死亡した場合の遺族への給付制度があり、その扱い方は様々で、種々の問題を孕むことがあります。ここでは、厚生年金基金の規約について、その問題の一面を覗いてみましょう。

 

 厚生年金基金(以下基金と言います)は厚生労働大臣の認可を受けた規約により運営しています。したがって規約の書きぶりによって基金の運営は異なります。

 加入員や年金受給者(以下受給者等と言います)が死亡すると、多くの場合は遺族からの請求に基づき遺族一時金が支給されますが、請求できる遺族はどの基金も同じというわけではありません。

たとえば、遺族の範囲及び順位として、「第一順位は配偶者、第二順位は子・父母・孫・祖父母又は兄弟姉妹、第三順位は生計維持関係にあるその他の親族、但し、第二順位については記載の順序とする。」と規定している場合と、この但し書きがない場合があります。

 

 最近は、配偶者がすでに死亡していて、第二順位が遺族一時金請求者で複数人いる例が多いです。この場合は規約に「請求者は同順位者全員のためその全額につきしたものとみなし、請求者に対してした支給は、全員に対してしたものとみなす」と規定しているので、請求者に支給すればそれで済むことになります。しかし、基金は限られた狭い組織ですから、請求者以外の同順位者からクレームが

つくこともあります。そこで基金はこれを避けるため、特に遺族一時金が高額な場合は、請求者から他の同順位遺族の受領委任状を提出してもらっていることが多いようです。

 規約に但し書きがない場合は、子供だけでなく、父母・孫・兄弟姉妹が同順位の遺族となるので、請求者は委任状を集めるだけでも骨の折れる作業です。また、遺族の中には行方不明者もいて委任状が取れないこともあり、この場合は、委任状に代えて請求者から念書を提出してもらいます。

 

 基金に限らず、実際には、規約の原案は総幹事会社である金融機関が作成し、そっくりそのまま厚労大臣に申請をして認可を受けている場合が多いようです。

 しかし、企業年金の実施主体である企業や基金は実務を行う立場にあり、規約が曖昧だと、遺族間の争いに巻き込まれたり、給付が真に支給されるべき人に届かなくなるおそれがあります。各実施主体としては、現状の規約を見直してそれぞれの法制の下、遺族一時金を受ける者として最もふさわしい遺族の範囲と順位を定め、柔軟且つ自主的に規約を変更することが大切です。

 

(近藤嘉正)

 

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