企業年金の現場から H25.12

厚生年金基金の代行返上の実際

 

 “代行返上”という言葉には心地よい響きがあります。厚生年金基金の重荷である代行部分を国に返上して、残りの部分だけを皆で一致団結して運営していけば、すべての問題が解決できると思わせます。

果たしてそうだろうか?以下に考察してみたい。

 

1.代行返上の仕組み

 代行返上とは、厚生年金基金(以下「基金」という)の代行部分を国に返還し、残った上乗せ部分(基本+α部分と加算部分)の権利義務を承継して、確定給付企業年金(企業年金基金)を新たに設立することです。上乗せ部分以外に基金の独自給付部分の給付義務も引き継ぎます。

独自給付とは国の厚生年金では支払われないが、基金では支払われるもので、「失業手当受給者に基本年金を支給する(基金規約に併給調整条項がない場合)」や「遺族年金や障害年金の受給者に基本年金を支給する(同上)」などがあります。

 

2.代行返上のメリットとデメリット

 (1)メリット

    代行返上のメリットとしては、代行部分の運用リスクがなくなる、受給権者の給付が継続するなどがあります。

 (2)デメリット

    受給権者に対する給付義務を引き継ぎますので、掛金が割高になります。ざっくりと試算すると、脱退して新たに加入員(社員)を対象に基金の上乗せ部分と同額を支給する年金制度を立ち上げた場合に比べると、掛金額は2倍程度となる可能性があります。

    また、従来の共同運営を継続することになり、制度設計の自由度が奪われます。単独運営であれば、退職一時金制度の給付も併せて移行したり、新制度を確定拠出年金としたりなど自社に最適な制度とすることが可能です。

 

3.基金に加入している企業の留意点

  基金に加入している企業が留意すべき点は以下の通りです。

 (1)自社の方針を決定する

    自社が加入している基金の現状を診断し、自社にとって最適な選択肢は何かを判断する必要があります。任意脱退が最適な選択という判断になれば、すぐにでも脱退に向けた検討を開始する必要があるでしょう。

基金の解散や代行返上を待たざるを得ないという判断であれば、基金事務局や理事・代議員に解散や代行返上に向けた働きかけをする必要もあります。但し、基金事務局や理事・代議員の理解が得られなければ、実現は難しいこととなります。

    また、最適な選択肢は何かを判断する場合は、具体的な数値で判断する必要があります。抽象的な議論では、結論を導き出すのは難しいでしょう。

 (2)代替制度の検討

    代行返上であれば、設立される企業年金基金が基金の上乗せ部分に代わる制度となりますが、解散や任意脱退の場合は代替制度を創設する必要があります。

なかには、小規模企業は企業年金の導入ができないから基金制度は継続すべきだと主張する人がありますが、現在では少人数でも加入が可能な企業年金制度がありますので、初めからあきらめる必要はありません。

 (3)様子見のリスク

    基金の中には3年から5年間は様子を見て、その時点で存続が可能かどうか判断し、存続が難しい場合は代行返上をするという方針を出すところがあります。それにただ追従するのは最悪な判断となるでしょう。加入企業のために様子を見るのか、基金事務局などの都合なのか、しっかりと見極める必要があります。場合によっては、脱退を検討する必要があるかもしれません。

 

(葉山 俊夫)

 

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