企業年金の現場から H25.01

今後の厚年基金問題のとらえ方(1)・・・解散か脱退か?

 

 厚生労働省では、昨年、民主党内閣の時代から、厚生年金基金の抜本的見直しに取り組み、10年後にはこの制度を廃止することを展望して基金の解散を推進するという基本方針案を社会保障審議会の専門委員会に諮っています。全面廃止案には自民党からも異論がありますので、新政権下での結論は未知数ですが。現在の指定基金やその予備軍のような困窮した基金は解散させる方向で考えていることは与野党とも同じ考えです。

 こうした情勢の中で、かなりの数の基金は解散を視野に入れて今後の運営方針を考えるようになりました。一方加入企業としては、解散の流れに乗って行くのと、この際任意脱退するのとの選択に迷っておられるところも多いようです。

問題は、検討しておられる企業や、また基金事務局さえも、大事な視点を欠いたまま、どちらかに突っ走ったり、右往左往しているケースが多いということです。

以下解散と脱退の企業の負担となる金額を算出する上で、留意すべき問題点を簡単に記述しますので、どれか忘れていないかチェックしてみて下さい。

 

1.厚生年金保険法および基金規約上の負担額・・・これだけの比較では判断できない

 代行割れ基金の場合、解散にあたっては代行部分のための最低責任準備金と基金が保有する純資産の差額を、一時金または(特例解散が認められれば)分割で国に納付する (加入企業としてはそのシェアー分)のに対して、脱退の場合は、これに加算部分のための数理債務をも加えた額のシェアー分となり、明らかに解散の方が安く済みます。一部の基金の代議員会やコンサルタントではこの比較だけで解散を推奨しているところもありますが、それは誤りです。

 

2.労働法上の負担(1)・・・基金給付の将来分、これはどちらもあいこ

  解散でも、脱退でも、過去分はともかく、将来分は積み立てられません。しかし、。解散、脱退したから以後これを一方的に打ち切りというのは不利益変更です。別途企業年金の設定か退職一時金の増額か、何らかの代替処置が必要です。ただこの負担額は解散も脱退も同じで、比較論としてはあいこです。

 

3.労働法上の負担(2)・・・・解散の場合、過去分の代替処置は避けられない

 2.の将来分は期待権ですから、この際給付の減額を従業員と交渉することも考えられますが、過去分はそうはゆきません。脱退の場合は、長期勤務者(基金によって勤続10年とか15年以上とか)は引き続き厚生年金受給時に基金から年金が支給され、またはそれに替えて脱退時に選択一時金を受けることも出来ますが、代行割れ基金の解散では、全く支給がありません。しかし、将来分と違って過去分は今まで働いた分についての既得権です。これをなくすることは将来分よりずっと困難です。解散の場合のみこの負担がかかります。

 

4.時間による負担増・・・解散まで2,3年高い掛金を払い続けるのか?

 脱退は、代議員会が素直に判断してくれれば、申請から半年くらいで実現しますが、解散は多くの加入企業の事業主や加入員の賛同を得、各人の給付額や各企業の拠出金額を計算確認し、代議員会にかけ、当局に認可を得るまで、2年くらいはかかります。理論上はともかく、幹事金融機関での計算や当局の窓口の混雑を考えてると、もっとかかるかも知れません。その間は高い掛金を払い続けることになります。

 

5.選択一時金の殺到・・・解散の場合、これでも負担が増える。

 解散の場合、OB諸氏は説明を受けるだけで、決定には参加できず、代行割れの場合、加算部分の支給は消滅します。こうした不利から逃れるため、OBは解散前に選択一時金を選ぶチャンスが与えられています。ただこれが解散前に殺到しますと、ただでさえ目減りしている資産はさらに減少し、その分、解散時の拠出金は増加します。

 

6.脱退は抜け駆けか?・・・基金の収入が増え、解散時の拠出金が減る。

 一見脱退企業だけが解散拠出金を免れるので、こういう「抜け駆け」を許さないという感情的反発があります。しかし少し考えてみると、お金のある企業は脱退してくれた方が基金の当面のキャッシュフローが改善され(長期的には掛金収入が減りマイナスですが)、残った企業の解散時の拠出金が軽減されるのです。基金は脱退企業から加算部分のための一時拠出金を徴収しますが、その2~3年後に解散したら、代行割れ基金はその加算部分を払う必要がないのですから。

H社の例では、脱退拠出金185百万円、解散時拠出金111~121百万円でしたが、上記

 

3.4.5.を計算すると解散時までの総支出は177~216百万円で、脱退の方が支出が少なくなる可能性がありそうです。同社ではかねてから連結親会社から退職給付債務の縮小を求められており、この際基金を脱退して、加算部分の代替制度としては、退職給付債務が生じないDCを導入して、債務縮小を図ると同時に、企業年金の拡充という2つの経営目的を果たす方針を立てました。このように脱退と解散の判断は、基金と企業の状況を相当多角的に考えて判断する必要があります

(岸田 文夫)

 

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