企業年金の現場から H24.12

従業員のモチベーションは向上のために

 

 退職金制度改革の前提として、給与制度の変更を相談されることもしばしばあるが、多くの従業員にとって、かなり将来の問題である退職金と違って給与制度は明日からの問題で、従業員の関心も一段と強いのが通例である。しかし、関心が強いだけに労使のコンセンサスの醸成には一工夫も二工夫もこらさなければならない。

 

 従業員というのも経営者が思うほどは経営者の思いを理解することは少ないのが通例である。例えば、ある企業で業容が拡大し業績も上がったので経営者が従業員の貢献に報いる為にと賃金のベース・アップを実施した。従業員もその時は喜んだが1年も経つと経営者に対する感謝の念はほとんど忘れられ、ベース・アップ後の賃金が当たり前のこととなり、2年後には組合が出来て今度は経営環境が厳しくなった中で更なるベース・アップの要求が出てきて、くだんの経営者は出来る時にはと従業員のためを思い自発的にベース・アップまでしたのに誰もが分かっているこの苦しい時期に出てきた従業員の勝手な話にがっかりしたという話がある。

 

 企業を成長発展させ、持続させて行く為にはヒト、モノ、カネが重要だとよく言われる。

モノ、カネもそれを活かせるヒトがいなければ有効に機能しない。多くの場合ヒトの問題が企業の要となる。

従業員がモチベーションを持って働けるような企業にするためには、まず明確な企業のビジョンがあり、それに向かってリーダー・シップを発揮できる経営者がいて、形はどうであれ経営計画があり、その一部として人事政策があり、持続的にヒトを育ていけることが大事である。

広義の人事制度の中に賃金制度があり、賃金制度の一部として退職金制度があり、退職金制度の支払い方法のひとつとして企業年金制度がある。

 

 企業年金制度ひとつをとってもこのような全体的な構造の中で位置づけられ全体が理解され、全体がうまく運用され、活かされていくことができれば真に企業にとっても従業員にとてもより意味あるものになるのではないかと思う。作り上げたいろいろな制度が活きてくるようになるためにはそれなりの企業内コミュニケーション、企業風土が土台としてあることが前提となる。経営者はそのような全体的な構図を常に頭の中に入れておくことが必要なのではないだろうか。                               

 

(鼓 康男)

 

「企業年金の現場から(H27年以前)」に戻る