企業年金の現場から H28.02

基金の解散・脱退に伴い退職金制度を改革した事例

 

 厚生年金基金制度の見直しは、平成27年度に本格化し12月までに解散94基金、代行返上12基金となり合計106基金が廃止したことになり、残る厚生年金基金は340基金となりました。厚生年金基金の廃止で多数の中堅・中小企業は、多額の掛金拠出から解放されましたが、一方従業員の老後所得は、厚生年金基金の廃止で減少すると共に、中長期的に公的年金が大幅減額となるため、代替年金制度の設定が望まれます。この段階では、単なる基金の代替措置を決めるという考え方ではなく、会社の退職金体系全体を、労務管理上の観点と、財務管理上の観点の両方から見直し、労使が相互に納得でき、さらにコストを縮小する制度に再構築することができる絶好の機会かと思われます。

 

 先ず、解散を機に自社で代替制度を設定した300人規模の企業の事例をご紹介します。従前の制度は、38年勤続者の基金の1人当たりの給付額は500万円で、他に確定給付企業年金(DB)及び退職一時金制度が1000万円で、合計1500万円でした。このような制度から、厚生年金基金の給付相当額を確定拠出年金(DC)に移行しました。

 厚生年金基金への掛金は、積立不足に対応する特別掛金が2/3を占めておりその掛金がなくなることで年間総費用は、1億円から7千万円(70%)に減少しました。(但し、基金の積立不足の解消費用は別途。)厚生年金基金からDCに移行することで、従業員には従来給付と同等の給付をしながら費用が70%に減少し、企業は資産運用リスクからも解放されました。

 

 次に、代行返上を志向する基金を脱退し、自社に適したキャシュバランス・プラン(CB)制度を導入した700人規模の企業の事例です。

 従前の制度は、大学卒38年勤続者で1人当たり厚生年金基金から240万円、退職金前払い制度560万円、確定拠出年金(DC)800万円で、合計1600万円でした。この企業では、従前の費用の範囲内で給付の増額を検討して欲しいとの要望がありました。

 DCはそのまま継続して、基金の代替制度と退職金前払い制度については、従業員と企業の双方に優しくリスクが少ないCBを導入することにしました。前払い制度への拠出金は給与とみなされ、それに比例して会社が払っていた社会保険料がCBを導入することにより減額になるため、これをCBの掛金に追加することで、大学卒のモデル給付を25%アップの2000万円に増額することができました。加えて、前払い退職金を企業年金に移行したことによって、従業員の社会保険料及び所得税・住民税の減少が38年累積で1人当たり200万円近くに

達します。

 

 厚生年金基金制度の縮小・廃止に伴い、企業年金への加入企業数は、以前の26万社が間もなく数万社に激減することが予想されています。そこで政府は、昨年の国会に提出した「確定拠出年金の改正法」に続き、本年はいわゆる「第3の企業年金(リスク分担型DB)」を設定し、企業年金制度の使い勝手を改善することで普及拡大を急ごうとしております。現在人材不足が拡大しており、企業年金制度の充実は人材募集の場合の良い条件になるとも考えられ積極的に取り組む機会ではないかと思われます。

砂田昌次郎

 

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