企業年金の現場から R5.9

「厚生年金の経過的加算部分(差額加算、経過的加算額)とは?」

公的年金についての質問を受ける中で、「経過的加算部分とは何ですか?」「差額加算とは何ですか?」との質問を受けることがあります。

 

「ねんきん定期便」の老齢年金の見込額の65歳時の年金の欄は、老齢基礎年金と老齢厚生年金とに区分され、老齢厚生年金の欄は、「報酬比例部分」と「経過的加算部分」とに区分がされていてそれぞれ年金額(1年間の受取見込額)が記載されています。

一方、年金事務所の年金相談に行ったときにもらえる「試算結果」(や「制度共通年金見込額照会回答票」)の老齢厚生年金の年金見込額内訳の「基本年金額」には「経過的加算部分」という記載はなく、「報酬比例」と「差額加算」と「繰上調整」とに分かれています。

さらに、年金事務所でもらえる日本年金機構が毎年度発行している「国民年金・厚生年金 老齢基礎年金・老齢厚生年金」というパンフレットには、「経過的加算額」に関する説明や図が記載されています。

 

実は、ねんきん定期便記載の「経過的加算部分」、制度共通年金見込額照会回答票記載の「差額加算」、パンフレット記載の「経過的加算額」、これらは全て同じものです。これらはもともと、60歳代前半に支給される特別支給の老齢厚生年金の「定額部分」の額と65歳から支給される老齢基礎年金の額との差額を老齢厚生年金に加算して支給することとされたもので、(昭和60年法附則第59条2項)以下の期間に係る定額部分に相当する額(老齢基礎年金に反映しない部分)等が65歳以降の老齢厚生年金に加算されるという制度です。

(1)昭和36年4月1日以後の期間で、20歳未満または60歳以上の厚生年金加入期間

(2)昭和36年3月31日前の厚生年金加入期間

 

59歳のときに日本年金機構から届いたねんきん定期便を見た後、特別支給の老齢厚生年金の支給開始年齢を迎えるまでに年金事務所の年金相談を利用するケースが一般的には多いのだと思いますが、その際に、年金事務所に置いてあるパンフレットを持ち帰る方もいると思います。昭和60年法附則第59条第2項の条文中では、これら三つのいずれの用語は使用されていないこともあり、できれば、年金受給者の皆さんの誤解が生じないように、一般の方向けに使用する用語については統一した方がよいのではないかと個人的には思います。

残念ながら老齢基礎年金と老齢厚生年金とでさえ混同している方も多いですから、この部分がどういう経過措置なのか、何の差額なのかについてまではご存じない方が多いのではないでしょうか?

 

今後、年金請求手続きをされる方々についてはこの場合、この制度の意味を正確に理解することよりはむしろ、次の事をきちんとご理解いただく方が重要だと思います。

 

① 令和4年4月以降、老齢厚生年金(報酬比例部分)が毎年改定され、在職老齢年金制度の年金支給停止額計算式における「基本月額」(調整の対象となる年金額÷12)が毎年10月分から変更(増額)されることになりました。

これに伴い老齢厚生年金(経過的加算部分)についても厚生年金加入期間が480月未満であった場合は480月に達するまでの月数分を限度に改定されます。(65歳到達月の前月までに厚生年金保険加入期間が480月に達している人は、改定されません。)そのため、学生等で20歳以降年金支払いができなかった期間についても480月達するまで厚生年金に加入する限り報酬比例部分のみならず、経過的加算部分についても年金額の増額改定の対象となります。

② 経過的加算部分(差額加算、経過的加算額)は老齢厚生年金に加算されるものですが、在職老齢年金制度の支給停止対象とはなりません。したがって、請求手続きさえ行えば、役員報酬がいくら高くても、老齢基礎年金と同様、全額受給できます。

 

公的年金の支給額の把握は老後資金を検討する上で最初に確認する事項ですが、年金事務所等の専門家へ相談を行う前に、言葉の意味を把握し、支給額に誤りがないかどうか理解することは重要と言えます。

 

文責:大西 浩

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