企業年金の現場から R5.5

「企業型DCポータビリティ 事業主の説明義務です」

企業型DCの加入特典の1つに離転職時の年金資産の持ち運び(ポータビリティ)があります。ポータビリティを活用することで、それまで積み立てた年金資産を離転職時にも課税されることなく持ち運ぶことができます。また、積み立てを継続することにより退職所得控除の基礎となる勤続年数の通算年数に加算することができます。離転職の機会が増えている現在、資産形成を継続できるポータビリティは、大きな特典となっております。

 

一方、企業型DCの加入者資格を喪失した場合に、転職先の企業型DCや個人型確定拠出年金(iDeCo)の加入者等とならないときは、6カ月以内に移換手続きを行わなければ、年金資産は国民年金基金連合会に自動移換され、資産運用ができなくなります。その間は資産運用ができないまま、手数料が引き落とされることとなります。2022年11月末時点での自動移換者は100万人を超えており、多くの加入者がポータビリティの特典を活用できていない状況です。

 

一つの原因として考えられることは、年金資産のポータビリティに伴う移換手続きは、加入者自身が行わなければならないことです。転職や離職の際には、移換先としてどのような選択肢があるのか加入者自身が理解することが必要です。

 

企業型DCからのポータビリティが可能な先としては、

・転職先の企業型DC 

・個人型確定拠出年金(iDeCo)

・確定給付企業年金(DB)

・通算企業年金

・中小企業退職金共済(中退共)

の5つがあります。但し、企業型DCと個人型確定拠出年金(iDeCo)以外は、移換できる条件や注意点があります。

 

確定給付企業年金(DB)は、転職先のDB規約において、DC制度からの移換を受け入れる旨の定めがある場合に限られます。

 

通算企業年金は、2022年5月以降は企業型DC加入者が退職等で資格を喪失した際には、企業年金連合会が実施する通算企業年金への移換ができるようになりました。ただし、6カ月経過して自動移換となった年金資産を通算企業年金に移換することはできないので注意が必要です。

 

中退共との間の移換は、中退共に加入している企業が中小企業に該当しなくなった場合や、合併等に伴い制度を1つにまとめる場合に限られます。

 

企業型DC加入者の多くの人がポータビリティに関する十分な知識を持っているとは限らす、自分自身の知識で年金資産の移換先を選択し、手続きを行うことは難しいかもしれません。

 

退職者や中途入社への「ポータビリティと年金資産移管」に関する説明は、事業主の説明義務となっています。

退職者に対しては、

・移換することができること

・移換に係わる判断に資する必要な事項

・自動移換に関する事項(移管申出は、資格喪失日の属する月の翌月から6カ月以内に行うこと、6カ月以内に申出をしなかった場合の取扱い、自動移換となった場合のデメリット等)

を説明することが必要です。

 

中途入社に対しては、

・前職でDC加入者となっていたか

・移換することができること

・6カ月以内に申出をする必要があること

などを説明することが必要です。

 

転職など多様で柔軟な働き方が増えるなか、転職しても将来の資産形成が継続できるよう退職者に対する事業主の説明義務は重要です。退職者説明マニュアルなどで徹底することもひとつの手段となるでしょう!

文責者:田邊勝彦

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