企業年金の現場から H31.2

確定拠出年金導入企業の運営管理機関の評価事例

人生100年時代が到来し、公的年金の補完としての企業年金、なかでも確定拠出年金の加入者は企業型・個人型を合せ約800万人となり、今後さらに加入者が増加するものと考えます。企業型確定拠出年金は企業にとっては後発債務が発生せず、加入者にとっては税の優遇を受けながら運用やマッチング拠出等ができるため、将来の受給額増加を期待できる有利な制度です。しかし、適格退職年金から移行した又は導入後5年を超えた確定拠出年金については、企業が負担する手数料等が割高なうえ、加入者が負担する投資信託の信託報酬が割高な場合が多く評価・見直しが必要です。
 
私が担当しました評価見直しの事例を紹介します。A社の確定拠出年金の基本4資産(国内株式、海外株式、国内債券、海外債券)のインデックス型投資信託の信託報酬は、概ね0.6%であり最近の確定拠出年金で一般的である0.2%程度に対し高率でした。また、アクティブ型投資信託が6商品と多く、しかもその内ベンチマークに負けているものは5商品でした。これらの商品の信託報酬は、年率1.5%以上と高率のため、運用でカバーできずベンチマーク割れになったものと考えます。
 さらに、A社が負担している事務費(運営管理費+資産管理費)は、一人当たり年間6,000円程度であり最近のものより相当割高でした。

 上記の様に加入者及びA社の負担が大きいため、制度の改善を目指し現在の運営管理機関を含め3社でコンペを実施しました。コンペの結果をみると、3社の基本4資産の投資信託は、ローコスト(信託報酬0.1~0.2%程度)のインデックス型であり、新規2社のアクティブ型投資信託は優良な1~2本に限定されていました。
事務費は、3社共に現在の半額程度であり初期費用も少額のため、甲乙つけ難い内容になりました。そのため選考は、「運営管理機関の交代による加入者の主なメリット・デメリット」の検討を中心に進めました。

・運営管理機関交代による加入者のメリット:
①望ましくない運用商品(主に投資信託)は排除できるため、安心して商品の選択ができる。
②優良商品のみからの選択となるため、有利な運用結果が期待できる。
・運営管理機関交代による加入者のデメリット:
①旧規約の運用商品を全て現金化、その後新規約の運用商品に変更が必要。
②新規約に資産を移換するため、2~3か月程度の運用中断期間が生ずる。

 検討の結果、現在の事務費を現行の半額程度に引き下げるとの申し出もあり、加入者に運営管理機関交代による手続き上の不安を与えないため、現在の確定拠出年金を継続することにしました。望ましくない商品は当面排除できないが、より良い商品を追加採用することで、信託報酬が割高な問題に対応することにしました。ただし、運用商品が玉石混合となるため、投資教育をより充実させることになり、従来採用していた運営管理機関の投資教育ではできない、望ましい商品のみを選別して説明する私共の投資教育を採用することになりました。

 今回の制度改定により、追加採用されたインデックス型投資信託の信託報酬は資産残高100万円当たり年間2,000円となり従来の6,000円の3分の1、企業の事務費は一人当たり年間6,000円が3,000円に半減させることができました。
このような結果になり、A社による運営管理機関との制度改訂交渉では解決できなかった懸案が、外部コンサルタントを採用しコンペを実施したことにより解決できたとお礼の言葉を頂きました。
 (※ 今回の評価報告は、紙幅の都合で商品の信託報酬と手数料に絞りました。)

                        (砂田昌次郎)

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