企業年金の現場から R4.11

最近聞かなくなった老後2000万円問題から・・・

2019年夏、国のワーキンググループが公表した報告書をきっかけに関心を集めた「老後2000万円問題」。長生きがリスクと受け取られかねない試算は当時のマスメディアで大きく取り上げられ日本中で物議を醸しました。最近はそのような報道も落ちついてきたようですが、「2000万円」のバズワードで老後不安を煽る記事が、いまだにネット上等で散見されます。

 

 そもそも「2000万円問題」は2017年度総務省家計調査報告において、夫65歳以上、妻60歳以上、夫婦のみの無職世帯の平均的家計収支が月間実収入209,198円に対し月間支出263,717円とのデータから毎月▲54,519円が不足していることを根拠に、54,519円×12ケ月×30年で19,626,840円、概ね2000万円が将来不足するとの計算により問題となりました。ちなみに、ここ数年の家計調査報告の推移をみてみると以下の通りです。

      月実収入額   月実支出額    月間差額     30年差額   

2017年 20万9198円  26万3717円  ▲5万4519円   ▲1963万円

2018年 22万2834円  26万4706円  ▲4万1872円   ▲1507万円

2019年 23万7659円  27万 929 円   ▲3万3270円   ▲1198万円

2020年 25万6660円  25万5550円       1110円       40万円

2021年 23万6576円  25万5100円  ▲1万8524円   ▲ 667万円

 

この推移をみると2020年度はコロナ禍影響により、全国民に一律10万円の特別低額給付金が支給されたこと等から、実収入額が増え、一方、外出自粛や外食・旅行等の減少で消費が抑えられたことにより年間18万円程度の消費支出が減少。また、2021年は2017年と比較し社会保険給付増による実収入増(27,378円)と交通通信・教養娯楽・交際費等の減少による消費支出減(▲11,041円)とwithコロナの中でのライフスタイルの変容も感じられる数値データとなっています。

 

この数値推移をみていただけると「○○○○万円問題」が毎年変化しており、「2000万円問題」の議論が一部データの切り取りで本来の目的をゆがめた解釈で根拠そのものが誤っていることや、そもそも平均数値を多様化したすべての人のライフスタイルに合わせることはナンセンスであることがご理解いただけるのではないでしょうか?

 

そもそも公的年金は老齢・障害・死亡リスクに対する保険であり国民全体の共助といえる制度です。 所謂、貯蓄を目的としたものでは無いことが十分理解されていないことや高齢化社会に対する曖昧な不安がこのような議論が起こる要因である様にも思います。また、老後不安を煽って投資や保険に誘引しようとする金融機関や企業が多いのも事実と言えます。

 

確かに家計調査には今後想定される介護等の費用や老後の一時的な支出は含まれておらず、まだ見ぬ将来への不安が残ることは理解できますが、この不安に対応するには別途自助努力として、健康で長く働くことや時間をかけて安定的な資産運用でお金に働いてもらう等の対策が必要である様に思います。

 

その意味でいうとiDeCo、NISA等非課税枠を利用した確定拠出年金等各種制度の導入は企業やその従業員ともに不安を解消し仕事に集中するための価値ある施策であると思います。

 

今年は被用者年金の拡大など多くの人に公平に公的年金がいきわたるための法改正が進んでいますが、これらベースとなる年金に加え、資産運用を中心とした各種施策を導入することは企業の持続可能性を高めるための重要な施策であるように思いますが、如何でしょう?

 

文責 大西 浩

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