企業年金の現場から R3.5
「高年齢者雇用安定法の改正」が施行されました
2020年3月に高年齢者雇用安定法の一部が改正され、本年4月1日から施行されました。
改正法では以下のいずれかの措置を講ずる努力義務が新設されています。それは、
①70歳までの定年引上げ
②定年廃止
③70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入―特殊関係事業主によるものを含む
④高年齢者が希望するときは、70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
⑤高年齢者が希望するときは、70歳まで継続的に従事できる制度の導入
a.事業主が自ら実施する社会貢献事業
b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業
④と⑤の雇用によらない措置(創業支援等措置)は自社で雇用する以外の働き方なので、就業確保措置となっています。
また「高年齢者雇用安定法」はすべての企業にその努力義務が適用されるため、自社に高年齢者がいないからといって、無関心でいることは許されません。厚生労働省では「改正法が施行される2021年4月1日時点で、70歳までの就業確保措置が講じられていることが望ましい」としているからです。
事業主は毎年6月1日現在の高齢者雇用状況報告をハローワークに提出しなければなりませんが2020年改正では70歳までの措置に関する実施状況、労働者への措置の適用状況に関する報告が追加されます。したがって、努力義務とはいえ、早急に具体的な方針を決めるべきでしょう。努力義務を果たしていなくても罰則はありませんが、行政指導の対象となることがあるようです。
「高年齢者雇用安定法」への対応を進めると利用できる助成金があります。
独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構による「65歳超雇用推進助成金」では次の3コースがあります。支給要件がありますので詳細は厚生労働省のホームページの「事業主の方のための雇用関係助成金―65歳超雇用推進助成金のご案内」を参照ください。
Ⅰ 65歳超継続雇用促進コース
65歳以上への定年の引き上げ、定年の廃止、希望者全員を対象とする66歳以上の継続雇用制度の導入、以上いずれかの措置を実施した企業を支援するための助成金。1事業主につき1回限りの支給。定年引上げ等の措置の内容や年齢の引き上げ等に応じて一定の金額が支給されます。一例を示すと65歳以上への定年の引き上げ、定年の定めの廃止は
①60歳以上被保険者数 10人未満の企業
・65歳に引き上げ 支給額 ・・・・ 25万円
・66~69歳に引き上げ (引き上げ幅5歳未満) 支給額 ・・・・ 30万円
(引き上げ幅5歳以上) 支給額 ・・・・ 85万円
・70歳以上の引き上げ又は定めの廃止 支給額 ・・・・ 120万円
②60歳以上被保険者数 10人以上の企業
・65歳に引き上げ 支給額 ・・・・ 30万円
・66~69歳に引き上げ (引き上げ幅5歳未満) 支給額 ・・・・ 35万円
(引き上げ幅5歳以上) 支給額 ・・・・ 105万円
・70歳以上の引き上げ又は定めの廃止 支給額 ・・・・ 160万円
希望者全員を対象とする66歳以上の継続雇用制度の導入、他社による継続雇用制度の導入に関する支給額は省略。(厚生労働省のHPの「事業主の方のための雇用関係助成金」を参照)
Ⅱ 高年齢者評価制度等雇用管理改善コース
高年齢者の雇用環境整備(能力開発・能力評価、賃金体系、労働時間の見直しなど)の措置を実施する企業に、導入のための経費の一部を支給
下記の支給対象経費の額に助成率を乗じた額を支給
?雇用管理制度の導入等に必要な専門家等に対する委託費やコンサルタントとの相談に要した経費のほか、?上記のいずれかの措置の実施に伴い必要となる機器、システム及びソフトウェア等の導入に要した経費。
①生産性要件を満たした場合
・中小企業事業主の助成率 ・・・・ 75%
・中小企業事業主以外の助成率 ・・・・ 60%
②生産性要件を満たさなかった場合
・中小企業事業主の助成率 ・・・・ 60%
・中小企業事業主以外の助成率 ・・・・ 45%
Ⅲ 高年齢者無期雇用転換コース
50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者を、無期雇用に転換した企業を支援する助成金。無期雇用転換計画の作成・認定と、計画に基づいて実際に無期雇用へと転換することが必要になります。対象労働者一人につき下表の金額を支給
①中小企業 ・・・・ 48万円 <生産性要件を満たした事業主は60万円>
②中小企業以外 ・・・・ 38万円 <生産性要件を満たした事業主は48万円>
生産性要件は省略(厚生労働省のHP 65歳超雇用推進助成金のご案内参照)
文責:大倉 和久