企業年金の現場から H28.07

確定拠出年金(DC)法の改正について(その2)

 

 見直しの方向として取上げられた2番目~「ライフコースの多様化への対応」に関連する法改正について記します。これまでのDC制度では、国民年金の第3号 被保険者(専業主婦)や公務員は加入できませんでした。また民間企業の会社員も 確定給付年金(DB)や厚生年金基金への加入者は個人型DC制度には自ら加入できません。

 今回の法改正では、労使の合意が前提ですが、全ての国民が加入できる制度に 改正された点が大きな特徴です。  

 もう1点、企業年金のポータビリティ(資産移換)について、従来はDBから DCへの一方通行でしたがDCからDBへの移換も可能となりました。また 中小企業退職金共済(以下中退共という)は企業年金ではありませんが、企業規模が 中小企業の域を超えた場合、中退共からDB・DCへの移管(従来はDBへの移換 のみ)及び企業が合併・企業分割等をする場合の中退共とDB・DC制度と双方向で資産移換が可能となりました。

 

① 個人型DC加入者資格の拡大・・・平成29年1月1日施行   

 a.ねらい:国民の老後資産形成の促進   

 b.掛金:新たな加入対象者の拠出限度額     

 

  企業型DC加入者(他の企業年金がない場合):月2.0万円(年24.0万円)※     

  企業型DC加入者(他の企業年金がある場合):月1.2万円(年14.4万円)※     

  確定給付型企業年金のみ加入者及び公務員等共済年金加入者:月1.2万円(年14.4万円)     

  第3号被保険者:月2.3万円(年27.6万円)

 

  ※企業が個人型DCを導入すると企業型DCの限度額が下る点に留意   

 

  企業型DC加入者(他の企業年金がない場合):限度額月5.5 万円⇒3.5 万円   

  企業型DC加入者(他の企業年金がある場合):限度額月2.75万円⇒1.55万円     

    条件:企業型DC規約に個人型DCへ加入可能であることを定めていること

       マッチング拠出を実施していないことを要す~いずれかの選択となる     

 c.税制措置:1.DC掛金額の所得控除(小規模企業共済等掛金控除の適用)          

        2.運用収益に対する20%課税の免除           

        3.受給時の一時金は退職所得控除、年金受給は公的年金等控除の適用

 

② 企業年金のポータビリティ拡充・・・公布後2年以内   

 a.ねらい:企業年金制度の弾力化   

 b.DCからDBへの資産移換~DB規約にDCの個人別管理資産の移換受入れが出来る旨の定めがある場合、本人の申し出により可能に

 c.DB&DCから中退共への資産移換~企業が合併等の場合に限って可能に   

 d.中退共からDB&DCへの資産移換~企業が合併等の場合に限って可能に   

 e. 企業が中小企業でなくなった場合もDBに加え、DC制度を選択可能に    

 (厚生労働省関係法の整備等に関する法律で2016年4月より実施済)

 

 次に3番目の骨子である「DCの運用の改善」について主なものを記します。

 

 DC制度が平成13年10月に導入されて以来、15年を節目に様々な視点から検討された改善 の主要ポイントです。

 

①続投資教育の努力義務化・・・ 公布後2年以内  

 ・導入時投資教育の実施率は100%であるが、継続投資教育の実施率は約60%と低い。継続投資教育の法律上の位置づけを配慮義務から努力義務へ、つまり導入時投資教育と同様とし、実施を促がすものである 。

 

②運用商品の選定、商品数・・・ 公布後2年以内  

 ・運用商品の提供数の制限~平均提供数は18.3本、諸外国より多く「一定本数に抑えることが合理的投資判断に資する」という考えで商品提供数を減らすものである(経過期間が設定される予定)。

 

③運用商品の除外・・・ 公布後2年以内  

 ・運用商品を除外するにはその商品を保有する加入者の全員の同意を必要としていたが、所在不明者を除いて3分の2以上の同意で除外可能とする。

 

④指定運用方法(デフォルト商品)の措置・・・ 公布後2年以内  

 ・長期分散投資効果が期待できる商品を指定運用方法として提示できる。未指図の個人別管理資産に特定期間と猶予期間の経過後に適用出来ることとする。

 

⑤運営管理機関の業務評価・・・ 公布後2年以内  

 ・事業主は5年に1回は運営管理機関の評価を行い、運営管理機関の変更等の必要な措置を講じなければならない(事業主の努力義務)

 

 以上、DC法改正の主な内容をご説明しました。実施に当たっては今後逐次出される 政省令がまたれます。

 

 継続審議事項として①DC拠出限度額のあり方(DBは限度なし)②DCの60歳以前引出し 制限(DBはなし)③年金制度の普及(一時金受取がDB:7割、DC:9割)の3点が 挙げられていることを追記して終りとします。

(仁科眞雄) 

 

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