企業年金の現場から H28.04

代行返上の基金の説明会で聞いておくべきポイント(その2―受給者と加入者は公平か)

 

 代行返上を行う場合、給付を減らさず、掛金を上げず、かつ収支相当の健全運営をすることがいかに難しいか、そのために代行返上計画ではその調整のために実質的な給付減額を行っているということを3月号で書きました。次に、その実質的給付減額に当たって、2.代行返上後に、受給者(OB)と加入者(現役)の給付の公平性が保たれているか?という問題を考えてみましょう。

 

 多くの基金の計画書を見ますと、その給付調整に当たって、受給者(OB)の権利を守るために、加入者(現役)の権利をかなり大幅に縮減する傾向があります。それでもカバーできない部分は勿論事業所に掛金負担してもらうという構えです。

 

 ある基金では、現在の受給者は終身年金を続け、今後の受給者(現在の現役加入者)は有期年金を受けるという差別をつけているところもあります。また、ある基金では受給者には基本?アルファの給付を続け、現役加入者には廃止するという処置をとっています。実はこの基金の+アルファは大変大きいのです。よく言う「薄皮部分」ではなくその5倍にもなる「厚皮」で、受給者にとっては大きなメリットです。

 

 もう1つ受給者には、給付実施条件の面でも大きなメリットが維持されています。いわゆる「独自給付」というものです。厚生年金基金には通常の厚生年金の被保険者よりも様々な優遇処置があります。たとえば、通常の厚生年金では、年金の受給資格は加入後25年を経過しなければ与えられません。しかし厚生年金基金に入りますと、しかるべき年齢等の条件を満たせば1ヶ月加入していただけで年金受給資格ができます。また厚生年金の老齢給付については他の社会保障給付との併給調整がありますが、基金に入っていると、遺族年金や障害年金等の厚生年金保険法上の給付や、雇用保険や、高齢者雇用継続給付金との併給について基金の規約にそれが明記されていない場合は(それが結構多いのですが)併給を受けることができます。

 

 以上のような優遇給付を継続するには、当然その資金を新DBが負担しなければなりません。代行返上はかねて約束されていた受給者の権利を守るために必要だということが大義名分になっています。勿論年金受給者の権利を守ること自体は大切なことではありますが、多くの場合、代行返上では一方的に受給者の権利を尊重し、そのための負担を現役加入者の給付を低くし、必要な費用はすべて事業所が負担するということで解決を図ろうとしています。受給者と、加入者とその企業の間のバランスある設計が望まれるところです。

こういう問題は、本来その設計の全体像を加入者とその事業所に示し、関係者で十分に時間をかけて検討されるべきものでしょうが、多くの基金の説明書では「加入者の皆様に」ということで、主に加入者にとっての給付、掛金のことしか書かれず、受給者との待遇の差は全く見えないか、見えにくくなくなっている場合が多いのです。代行返上の説明会ではこのあたりも詳しく説明を求め、企業としてOBと現役とのバランスや掛金の使われ方を明確に認識したうえ賛否を決せられるようにすべきでしょう。

 

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