企業年金の現場から H28.03

代行返上の基金の説明会で聞いておくべきポイント(その1―計画の安定性は?)

 

 現在多くの厚生年金基金(以下「厚年基金」または「基金」、代行返上後の制度は「新DB」または単に「DB」)で代行返上計画が策定され、加入事業所に対し説明会が盛んです。こうした説明会では、厚年基金の事務局としてはできるだけ多くの事業所に代行返上計画に加わってほしいわけですから、もっぱら代行返上に参加することの有利性を説くことが基調になるのは当然です。しかし企業としては、この際自社の退職金全体のあり方を見直す姿勢で基金の提案を評価し、必要なら基金から離脱して自社独自の制度を考えることも視野に入れて考えてみる必要がありましょう。

 

 説明会に臨む姿勢として、大きく分けて次の4つの問題意識を持って臨む必要があると思います。

1.代行返上後のDBが安定的に運営され、ある水準の給付を基金より少ない掛金で確保できるか?

2.代行返上後に、受給者(OB)と加入者(現役)の給付の公平性が保たれているか?

3.代行返上に乗るのと、厚年基金から離脱して、自社独自の制度を作るのとではどちらが自社にとって有利か?

4.厚年基金を離脱する場合、任意脱退、分割・解散、権利義務の移転等のどれを選べるか?

 

 また可能性の中からなにを選ぶことが有利か?

 今回は1.について留意すべきポイントお話し、2.3.4.については次回以後に取り上げることとしましょう。

 まず代行返上後のDBの給付と掛金の水準とそのバランスとしての採算性です。

 

(1)給付水準の観察

 多くの基金では、「基金の加算部分とほぼ同水準の給付を維持します。」としています。月々の年金額は同じですが、基金の場合のように終身支給ではなく、20年くらいの有期年金になっており、これは実質的には給付減額です。一時金で受け取ろうとすると、思いのほか少額であったり、またその逆に、税金を考慮すると年金で受給するより一時金で受け取った方が有利という場合もあり、このあたりをよく調べてみないと基金と同水準かどうか分かりません。また実質的給付減額としては上記のような方法のほか、代行部分の付加給付であった基本+アルファの部分を廃止するケースもあります。

 

(2)掛金水準の検討

 掛金についても「現状程度の水準で」という表現を見かけます。ここではその「現状程度」というのが過去の積立不足を回復すべく引上げられた高い水準であることを忘れてはなりません。

 もう1つは、その「現状程度の」掛金の計算基礎としての予定利率を尋ねてみましょう。

 厚年基金の現状の予定利率は5.5%のままとか、引き下げても3~4%という場合 が多いようです。これを新DBで市場実勢に合わせて2%で(昨今のマイナス金利政策 を考えると1.5%ぐらいが無難かもしれませんが)計算してみるとどうなるでしょうか。

 給付額を動かさずに、予定利率を1%下げると、掛金が20%ぐらい上がります。2%下げると40%アップになります。この負担をカバーするためには前述の実質給付減額をかなり大幅にとることになるかもしれません。このあたりは説明を求めるべきポイントでしょう。

 さらにDBの採算を悪化させるのは、加入員規模の問題です。多くの基金ではここ毎年何パーセントかの割合で加入員が減少しています。今後も減少すれば当然採算性は悪化します。大抵の基金の代行返上計画ではその問題を説明していませんが、問い合わせると加入員数は現状維持となっている場合が多いようです。

 こうした厳しい事情から収支バランスがとれなければ、スタート時から、あるいは近い将来に特別掛金を徴収するしかないでしょう。

 顧みれば、厚生年金基金は、十分な運用成果が得られず、解散とか代行返上に追い込まれたのです。代行部分の返上で運用資産が減ってリスクの規模は小さくなりましたが、加算部分のリスクの確率が減ったわけではありません。よくある看板のように給付も掛金もほぼ基金の時の水準で代行返上を行えるというのは、ここ2~3年のアベノミクス・ブームで基金の財政が一時的に改善されたことから生じた錯覚かもしれません。 

 

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