企業年金の現場から H27.10

厚生労働省が「リスク分担型DB」の構想を提案

 

 かねて日経新聞等で「第3の企業年金」として報道されていた構想の概要が、9月11日の社会保障審議会の年金部会で「リスク分担型DB(仮称)」と名打って厚労省から発表され、原案の方向で、関係各省庁等との協議に入ることとなりました。

 厚労省としては、政省令を固め、できれば平成28年4月から実施したい模様です。

狙いはDBとDCのメリットを享受し、デメリットを除去して、企業年金をより魅力あるものとしたいというもので、厚生年金基金解散後の受け皿としても検討に値します。

 

●現状は

★DBでは、従業員は退職金の給付を確定的に保証されるが、企業は将来の運用不振による積立金の目減りをカバーするリスクにさらされ、積立不足に見合って引当金を積むことになります。

★DCは、運用は従業員が行うので、企業は運用不振をカバーするリスクを免れますが、そのリスクは従業員が負い、且つ退職しても60歳までは退職金を支給されないという制約を負います。

 

●これを新制度「リスク分担型DB」 では、

★企業は、将来ある程度の積立金不足が生じてもそれをカバーできるように、少し多めに掛金を払ってある程度まで積上げる。それでも積立不足をカバーしきれない場合には給付減額を行い、財政均衡を図るというものです。

★積立金の運用は会社が行い、従業員は自主運用の負担を免れ、またこの掛金はDCと同様に、今後負債増額のリスクを負いませんので、退職給付債務として計上する必要もないのです。しかも基本的にはDBですから60歳未満の退職に際しても支給されます。

というように、DCとDBのメリットを併せ持つものとなり得ます。

 

◆今後の具体化が待たれる事項としては、どれだけ掛金を増加させれば数年後にどれだけ積立てることができ、どの程度の市況の悪化による資産減少に耐えうるか?(給付減額せずに済むか?)という制度の骨格を定量的にはっきりさせることです。

掛金増加率は政省令で下限率が決められることと予想されます。この制度が範とするオランダの法令では5%以上と決められています。他の条件にもよりますが、5%の掛金アップがあり、将来起こり得る積立不足を10年で償却するという前提に立てば、30%~40%ぐらいの資産価値下落に耐えうる計算になります。 厚労省の説明書では「20年程度に一度の損失にも耐え得る基準を考えたい。」と述べており、日本での過去20年の事例では、厚生年金基金とDBの平均値で、平成14年~16年に起こった27%程度の資産目減りには楽に耐えうる(給付減額しないで済む)ものになることが期待されます。

 

◆一方、市況が好転して余剰金が数理債務または最低積立基準額の1.5倍を越えた場合は、コントリビューション・ホリデイとして、掛金を減額するか、給付額を増やすかによって均衡をつけることとなるのでしょう。   

 

◆一つ気になることがあります。この制度の実行のタイミングです。この制度が厚生年金基金の受け皿 として設置されるとしたら、基金からの分配金は、事業所単位でこの受け皿制度に移換してもらわなければなりません。ところが基金によっては解散手続きをなるべく速く進めたい、その手続きの一環として個別企業の分配金の移換希望は早く締め切って最終清算手続きに入りたい、一方企業としてはこの新しい制度の採用はそれなりに慎重に検討したい、他の制度との比較、この制度の年金財務、企業財務の与える影響試算、この制度を前提とした設計試行、ある条件下では給付減額を覚悟しなければならない従業員の理解推進と、結構時間がかかって基金の分配金移換のタイミングに間にあわないということになってしまっては元も子もない。政府としてもせっかく作った新制度が、そんなことであまり使われないというのでは困ることでしょう。

 私どもも、そうした時間の齟齬をきたさないよう、新制度の早期施行と基金の解散手続きの適切な指導を当局にお願いしております。 

 

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