企業年金の現場から H30.11
改正高年齢者雇用安定法の概要
「70歳までの就業機会確保措置」が2021年4月1日より努力義務になります。
2020年3月31日、改正高年齢者雇用安定法が公布されました。2021年4月1日より、企業には70歳までの就業機会の確保を図ることが求められます。取り敢えずは「努力義務」ですが、同法の過去の改正経緯(現行の65歳までの雇用確保措置の努力義務化から義務化までは約6年かけています。)などをみていると段階的に義務化されることも十分予想され、企業の人事賃金制度、企業年金制度等の検討にあたっては考慮しておく必要があるものと思われます。
<改正の背景>
少子高齢化が急速に進展し、労働人口が減少している現在、経済・社会の活力を維持するためには、多様な人材の活用が不可欠です。特に高齢者においては、60歳以降も高い就業意欲を持つ者も多く、そういった働く意欲のある高齢者が、その能力を十分に発揮し活躍できる環境を社会全体で整えていくことが必要となります。
一方で、高齢者、特に65歳以上の場合、本人が活躍したいと考えるフィールドや、介護などの家庭の事情、本人の健康状況などにより、正社員以外の働き方を希望する高齢者もおり、多様な働き方のニーズがあることがわかっています。
こうした状況をふまえ、2016年6月に政府が策定した「成長戦略実行計画」において、70歳までの就業機会の確保と、65歳以降の多様なニーズに応えるため法制度上で多様な選択肢を整えることなどが示され、労働政策審議会職業安定基本問題部会において高年齢者雇用安定法の改正に向けた検討がなされました。
<現行制度>
現在の高年齢者雇用安定法では、事業主に対して、希望者全員65歳までの雇用機会を確保するため、次の「高年齢者雇用確保措置」のいずれかを講ずることが義務づけられています。
高年齢者雇用確保措置
①65歳までの定年引上げ
②65歳までの継続雇用制度の導入※
③定年廃止
※2012年度までに労使協定により、継続雇用制度の対象者を限定する基準を定めていた事業主については、経過措置として、その基準を適用できる年齢を2025年4月まで段階的に引き上げることが認められています。
<改正内容―高年齢者就業確保措置を新設―>
2021年4月1日施行の改正高年齢者雇用安定法においては、事業主に対して、65~70歳までの就業機会を確保するため、高年齢者就業確保措置として、次の①~⑤のいずれかの措置を講ずる努力義務が設けられました。
①70歳までの定年引上げ
②70歳までの継続雇用制度の導入
※特殊関係事業主に加えて、他の事業主によるものを含む
③定年廃止
④高年齢者が希望するときは、70歳まで継続的に業務委託契約を締結する
制度の導入
⑤高年齢者が希望するときは、70歳まで継続的に
a.事業主が自ら実施する社会貢献事業
b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業 に従事できる制度の導入
なお、努力義務について雇用以外の措置(前述の④および⑤)をとる場合には、労働者の過半数を代表する者等の同意を得たうえで導入することが求められます。
また、今回の改正では、これらの努力義務のほか、次の事項についても定められています。
●厚生労働大臣は、高年齢者就業確保措置の実施及び運用に関する指針を定める。
●厚生労働大臣は、必要があると認めるときに、事業主に対して、高年齢者就業確保措置の実施について必要な指導及び助言を行うこと、当該措置の実施に関する計画の作成を勧告すること等ができることとする。
●70歳未満で退職する高年齢者について、事業主が再就職援助措置を講ずる努力義務及び多数離職届出を行う義務の対象とする。
●事業主が国に毎年1回報告する「定年及び継続雇用制度の状況その他高年齢者の雇用に関する状況」について、高年齢者就業確保措置に関する実施状況を報告内容に追加する。
以上
文責:鼓 康男